卒業後、日立に入社した柯さんは、海外業務の担当になりました。
会社は修士号を持つ柯さんに大きな期待を寄せ、慶応大学卒業の先輩を直属の上司にあてました。ところが、社会の水はそんなに甘いものではありませんでした。
「初めて提出した出張レポートが、上司から投げ返されてきたことがありました。この時のことは永遠に忘れられないでしょうね」。柯さんの入社早々のことでした。「自分は大学、そして大学院で、それなりに実力を磨いてきたつもりでいました。卒業論文もやり遂げてきたという自信もあって、そのとき上司に提出したレポートは、自分では十分なものだという自負がありました。しかし、上司からは、手厳しい指摘を受けました。その事を通して、日本人が仕事に対していかに真剣に取り組んでいるかが肌身にしみて感じられました」
「上司が求めていたのは、過程と現状をただ述べることだけではなく、相関した因果関係を分析することでした。こうした訓練を重ねていくうちに、事前の準備から事後の検討まで、不明な点を洗い出すことによって、多くのミスを避けることができるようになりました。また、将来の状況を的確に把握することも可能になることがわかってきました。
いかにマーケットシェアをとるか、という課題に取り組んでいるなかで、受験当時の“負けず嫌いの気持ち”が自分の中で蘇ってきました。情報分析によって、競争相手との優劣をつかむことも出来るようになってきました」。柯さんは、持ち前の負けず嫌いの頑張りと熱心さで仕事の真髄をつかんでいきました。
日本で2年間働いた後、柯さんは台湾に帰国しました。柯さんは家業を継いで、ビジネスホテルの経営を任されることとなりましたが、「専門以外の分野でも、私が最も重視しているのは真面目さです」と言います。
大学で学んだ専門知識や、日本の職場で受けた技術や訓練を仕事に活かすことに加えて、職場で真面目に努力する姿勢を示すことに心がけました。こうすることで柯さんは、部下の手本になってきたのです。この真摯な姿勢が、4年という短い期間に、4つのホテルチェーンを次々にオープンさせ、どのホテルも高い宿泊率を維持させるという成功に繋がっているのでしょう。 |