塾員 in 台湾
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日本から帰国後は、清華大学電気工学系の教授として、また中央研究院情報科学研究所の研究員として、長い間学界をリードされてきました。その一方で、産業界ではOCRの成功に引き続き、現在はバイオメトリクス(生体認証技術)における指紋認識システムの分野で、ご自身が創立された「星友技術株式会社」が、世界でも最先端の技術の商品を次々と開発されていますね。


― はい。学術の分野では、1996年に、10年に一度、10人の教授を選ぶという「龍滕十傑賞」に選ばれました。その2年前には、「傑出工学教授」にも選ばれました。自分の日頃の研究が認められて賞を授かるのは、光栄なことと思っています。

産業界においては、私がスターテック(星友技術株式会社)を設立したのが、1990年12月のことです。会社創立以来、指紋識別システムの開発では、世界を牽引してきた、という評価をいただいています。
 1991年で、指紋識別装置を開発している会社は、世界でたった3社しかありませんでした。そのうちの1つがわが社でした。残る2つは、日本の三菱電機、アメリカのIdentixでした。世界でこの3つの会社が、指紋識別システムを同時に発表しました。

ところで、この研究から生産の工程において、研究段階と商品化の段階では一つの大きなギャップがあります。研究段階では、さきがけて新しい技術をうみだすのですが、商品化の段階では、国際基準や標準を念頭において製造しなければなりません。
 指紋認識システムの標準化では、指紋の特徴、データの標準化がまず必要になります。指紋の紋様はカーブを描く隆線がみられますが、紋様が分かれている分岐点、途切れている端点があり、こうした箇所を「特徴点」といいます。1本の指の指紋には、約40点の特徴点があります。

たとえば何か事件が起こった場合、容疑者を起訴するためには、その人の指紋は現場で取った指紋と、特徴点が13個一致しなければなりません。「13個の特徴点が一致すれば同一人物とみなす」と法律でも決められています。
 つまり、指紋認識の重要な特徴は、特徴点なのです。最初は皆、特長点をもって認識をする方法を考えました。ただ、特徴点だけでは認識率が低いと考える会社は、指紋の特徴点に加えて、点と点との間を結ぶ線の数も考慮に入れることを提案しています。

わが社では、将来共通に標準化されるのは、「特徴点」だけだということで、特徴点のみで認識するシステムを開発しました。この点で、わが社の認識技術は世界トップという評価をいただいています。







スターテック社の指紋識別システムは、台湾国内に留まらず日本など海外でも採用されているようですね。


― ええ。お蔭様で、台湾や日本だけでなく、世界各国でわが社のシステムが使用されています。最近ではタイにおいて、IDカード発行の際に指紋を登録するようになったため、バンコクの区役所1077箇所において、わが社の製品が使用されるようになりました。
 アメリカでは9・11の同時多発テロ以降、セキュリィティに関する関心が格段に高まりました。2004年1月からは、アメリカの入国審査で、ビザ入国者に指紋と顔を登録する義務が課せられるようになりました。
 ブラジルではこの対抗措置として、ブラジルに入国するアメリカ人に指紋押捺を義務付けるようになりました。これは相手国政府が自国民の指紋を取るのなら、われわれも相手国民の指紋を取る権利がある、という対抗措置の色彩もあるのですが。
 近年は、こうした入国管理に限らず、現在では指紋識別システムを備えたパソコンや携帯電話が商品化されています。情報化・通信化社会が進むにつれて、情報の安全性を保ち、いかに正しく本人であることを証明するか、ということは大きな課題となりつつあります。その意味でも、近い将来、指紋識別システムは、個人認証の方法として、さらにひろく活用されていくと思います。



スターテック社は、これまで数々の賞を受賞されてきましたが、なかでも台湾産業界で大変な栄誉である「国家産品形象金賞/Gold National Award of Excellence」を2度(1994年、2000年)も受賞なさっていますね。


― はい。最初の受賞は1994年ですが、私は当時から一貫して、「これからの台湾は『MIT(Made in Taiwan)』から『CIT(Created in Taiwan)』にならなければいけないと言ってきました。
1996年には同賞の銀賞を受賞し、2000年に再度、金賞をいただきました。これはわが社が常に、「CIT」を心がけて研究開発に取り組んできた姿勢を評価していただいた結果だと思います。

 工場で物を生産するだけの時代は、もう終わったのではないでしょうか。これからの台湾は、創造力を駆使し、時代をリードする製品を生み出そうとする弛みない研究開発の努力が求められます。

 創意工夫の力というのは、今の学生にも求められることです。私が大学院で指導している学生は、17年連続して、台湾の優れた論文に贈られる「龍滕優秀論文賞」を、修士、博士ともに受賞しています。
 私は1988年から1990年に工業技術院の副所長をしていましたが、その時には、当時からDVDやカラープリンティング、デジタルカメラの研究を開始しました。台湾のDVD関連企業で急成長した「廣明」の総経理は私の教え子です。彼の修士論文は指紋認識でした。その彼が、台湾のDVD界をリードしてきました。また、台湾最大のデジタルカメラの会社の総経理も、私の教え子です。

彼らに等しく共通しているのは、豊かな創造力です。一般的に、台湾の学生は、記憶力ばかりが発達して、創造する力に欠けているのが最大の問題点です。

10年、20年先の社会で、どのような技術が必要となるのか、まだ解決できない問題は何か――という視点からテーマを探し、研究開発に取り組むことが大切だと思います。

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