塾員 in 台湾
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−台湾に戻られてからのお仕事についてお聞かせ下さい。


 1969年に台湾に戻ってきてからは、幸い仕事のオファーが多数ありました。しかし、最終的には、国から紹介された、研究と実務の両方に携わることの出来る中央信託局の研究員の職に就くことを決めました。中央信託局在職中は、研究員として様々なリサーチを行い、その時々の経済問題に関わるデータを一つの報告書や企画書としてまとめる仕事に従事しました。

当時、大学の教職に於いて、留学先の大学から学位をとった先生は多くありませんでした。在職中、母校東呉大学の呉商学学院長が、私に後輩を指導する機会を下さいました。そのきっかけで、週に一度、仕事が終わってから東呉大学の夜間部で経済学を教えることになりました。2002年1月に中央信託局を定年になってからは、同大学で週に2回、経済思想史と貨幣銀行学を教えています。

1981年に、私は『国外直接投資と国際貿易』という本を執筆しました。当時、私の本を読んだ台湾の人から、「国外に直接投資の能力が台湾にあるのでしょうか?」と随分と聞かれました。当時は、「台湾は海外に直接投資ができない」と考える人が多かったようです。

実際にその5、6年後から、台湾は海外に直接投資を始めるようになりました。将来を見通しながら研究を進めてきた自分自身のキャリアのなかで、忘れられない出来事です。


−台湾に戻られてから、慶應とはどのようなお付き合いがありますか。


 ゼミの先輩に、現在の慶應義塾大学商学部で国際経済学がご専門の唐木圀和教授がいらっしゃいます。唐木教授とは、卒業後も大変親しくお付き合いをさせて頂いています。

二〇〇三年前半に、台湾がSARSで大変な状況になったとき、最初に電話をくださったのが唐木教授でした。台湾大地震のときも、真っ先に電話をかけてくださって、「陳さん、大丈夫ですか」、と私たち夫婦のことを気にかけて下さいました。そのお心遣いに大変感激しました。また、私たち夫婦が東京へ行くときにはお目にかかって、一緒に旅行を楽しんだりしています。私にとって、とても大切な同門の先輩です。

 またこうしたプライベートとは別に、研究活動などの仕事の面でもいい関係が続いています。2001年には、東呉大学で「アジア太平洋地区貿易・投資及び産業政策国際学術研究会」という国際会議を開催しました。そのときには、唐木教授、そして同じ白石孝ゼミの後輩でもある和気洋子慶應義塾大学商学部教授をお招きすることができました。台湾で主催した国際会議に、以前慶應で共に学んだ唐木さん、和気さんとオフィシャルな交流を深められたことは、大変嬉しい出来事でした。


(慶応義塾大学商学部・唐木圀和教授、同・和気洋子教授と)


−日本のよいところ、魅力はどういうところだと思われますか。

 そうですね、一番の魅力は、日本中いたる所が非常に衛生的で、すがすがしい気持ちにさせてくれるということでしょう。日本の衛生的な環境には、訪れるたびに感心させられます。

そして、日本の魅力の1つは、温泉が沢山あるところでしょうか。年に1、2回は家内と日本に行って、温泉を楽しみますが、家内は鬼怒川温泉のお湯が肌にあうようです(笑)。

−では、台湾の魅力はどんなところにあるとお考えになられますか?

そうですね、何と言っても、“果物パラダイス”だということでしょう。台湾では季節を問わず、美味しい果物が沢山食べられます。それにとても安いでしょう。果物は身体にもいいですし、皮膚にもいいですよね。台湾にいる間は、ぜひ、皆さんには台湾のフルーツをたくさん召し上がって頂きたいです。日本にはない果物も沢山ありますから、きっといつ台湾に来られても楽しめるのではないでしょうか。


―最近はどのようなことに関心をもっていらっしゃいますか。

「失業付き景気回復(Jobless Recovery)」に関心を持っています。普通であれば、景気が回復すると、失業率が下がるはずです。しかし、景気が回復の兆しを見せているなかで、失業率が高いまま、という状況はかつてなかったことです。非常に興味があります。

とくに、日本とアメリカにその現象が目立っています。この「失業付き景気回復」が、なぜ先進国に発生したのか、このような現象は一国の経済にどのような影響を及ぼすか、これからどういう変化をみせるのか、研究者として大変関心を持っています。

先進国に発生する現象なら、発展途上国にも必然的に影響があるでしょう。これは最近起こった状況で、まだ理論的な学説がありません。いろいろな説明がなされてはいますが、この現象を十分に説明しうる決定的な学説がまだないようです。

                                    
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