塾員 in 台湾
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−日本と台湾の2つの国で暮らしてきた日々を振り返って、日本への想い、台湾への想いをお聞かせいただけますか

 私の大切な時間は全て日本で過ごしてきました。日本は本当にいいところですよ。大好きです。みんな優しくて思いやりがあって、そういう点では、台湾は見習うべきところがたくさんあります。

 市川病院にいた時の話ですが、医者の仲間がひとり結核にかかったことがありました。そのとき同僚の医者たちは有給でしたが、パートタイムは大切な収入源でした。しかし、結核では働くことができません。アルバイト先も困るし、本人も困る。そこで、彼に代わってパート先を仲間が働き、それで得た収入は病気の彼に渡していました。そういう日本人の優しさをたくさん見てきました。日本に学ぶことは一杯あると思っています。

 それに、日本人には「心」がありますね。当時、慶應の研究室は小さくて狭かったけれど、皆夜の十時以前に帰ったことがありませんでした。熱心に、勤勉に、心を込めて、非常にいい研究をしていました。日本人の規律正しさ、真面目さ、誠実さ・・・・・・。私達は“日本精神”が当たり前の時代を過ごして来ましたから、日本のよさは良く分かります。

 たとえば、今の小学校2年生は何ができるだろうか、と考えるんですね。私達は2年生の頃から、農園に行って芋を作ったりしていました。4年生の時にはもう戦争が始まって、もっこをかついで高射砲のための土を盛ったものです。そういうことができました。物質的には欠乏していた時代でしたが、精神的な面できちんとした教育を受けていました。

 戦後、日本が台湾から引き揚げた後、1947年には二二八事件が起こり、台湾人にとってはとても厳しく、物の言えない時代に突入してしまいました。二二八事件では多くの無辜の台湾人が殺され、私の友人もその犠牲となりました。あの頃は本当に辛い時代でした。日本が引き揚げた後の台湾が置かれた状況と台湾人の気持ちを、どれだけの日本人がわかっているかな・・・と思うことが時々あります。台湾の若い人たちには、自分たちの歴史をしっかり学んでほしいと願っています。


−これまで座右の銘にしてこられた言葉はおありですか?

 「人事を尽くして、天命を待つ」です。
消極的な響きがあるかもしれませんが、それは当時の時代の影響を受けているのかもしれません。
 人生、必ずしも、計画通り展開されるものではありません。大切なのは、自分が立てた目標に到達するまでのプロセスではないでしょうか。
 その目標のために努力をする。結果は、「神のみぞ知る」です。悔いの残らない努力をすれば、結果がたとえ当初の目標どおりにならなくても、受け入れることができますし、そのとき時にした努力は必ず次のステップにつながるものです。
 結果は自然とついてくる、と思っています。

−今後は、どのようなことをやっていきたいとお考えでしょうか。

 現在私は、会社(南和興産株式会社)の董事長という立場にもあります。会社は土地の管理を主に行っています。戦後、先祖から引き継いできた土地の多くが、多数の人によって無断で占領されてしまいました。半世紀近くの間、それらの土地を取り返すことが出来なかったうえ、土地の税金は本来の所有者である私たちが支払い続けると言う、大きな矛盾を抱えてきました。最近になってやっと法律が改正されたり、私たち兄弟の努力の甲斐もあって、訴訟を通じ合理的かつ公平な契約を結ぶことが出来るようになりました。以前あった赤字も次第にバランスが取れるようになってきました。

 私は会社の董事長のほかに、高雄ゴルフ場の責任者、また高雄医学大学の顧問もしています。今後も大学病院の建設と発展に尽力していこうと思っています。そして何よりも、日本と台湾の橋渡しに努めていきたいですね。実は、高雄の日本人学校の校舎は父が作ったものです。そして今、私が日本人学校の校医を務めています。弊社のビルには、日本の交流協会高雄事務所が入っています。個人的には勿論のことですが、歴史的に繋がりの深い日本と台湾の関係に、今後も貢献できればと思っています。

−最後に、台湾三田会会員へのメッセージをお願いいたします。

 私は、日本の方が常々「会」というものを大切にすることを、とても素晴らしいと思っています。台湾では何かメリットがなければ、なかなか人が集まりません。父が存命中には、日本から慶應の方が高雄に来られると、父はいつも歓迎していました。私も、父から受け継いだ慶応義塾の繋がりをこれからも大事にしていきたいと思っています。そして、日本人と台湾人が力をあわせて、この台湾三田会を大切にし発展させていくことができれば嬉しく思います。

 現在、高雄医学大学は、アメリカのハーバード大学などと姉妹校になっています。将来、慶応義塾と姉妹校の提携を結び、更なる発展を遂げることが出来れば、何より嬉しく思います。高雄医学大学は当初は小さな学校でしたが、今は台湾の私立大学の中で屈指の規模と実績を誇る大学へと成長しました。慶應義塾大学と姉妹校の提携を結ぶということは、台湾にとって困難な時代に、慶応義塾の建学の精神を以って私塾を開いて心血と愛情を注いできた亡き父の、何よりの喜びであろうと思ってます。


−本日は有り難うございました。


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高雄医学大学 http://www.kmu.edu.tw/kmu.html
高雄医学大学附設中和紀念病院 http://www.kmuh.org.tw/
陳啓川先生文教基金会 http://www.frank-chen.org.tw

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